基層健全度評価方法の検討(研究期間:2019〜2022)
1. はじめに
舗装の修繕工事において切削オーバーレイ工法が大部分を占めているが、表層切削後の下層となる基層の健全度を評価する試験方法は明確に定められていないのが現状である。効率的な維持管理を行っていくうえで、基層を適切に評価することは極めて重要である。非健全部の基層は、剥離が進行している事例が多く、剥離抵抗性は健全度を評価する重要な要素の一つと考えられる。
基層の剥離抵抗性を評価する試験法として比較的汎用性が高い舗装調査・試験法便覧B019T「圧裂試験によるアスファルト混合物の剥離抵抗性試験(減圧法)」(以下、減圧法)に着目した。既に多くの文献で有効性が確認され、評価の提案がなされているものの、健全度を評価する指標についてはまだ検討の余地があると考えられる。そこで、本WGでは、減圧法による基層の健全度評価指標の検討および基層健全度の閾値の提案を目的に活動を行った。
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図-1 減圧法による圧裂強度評価の試験フロー |
2. 基層を模擬した供試体での減圧法による圧裂強度評価(2019〜2021)
走行負荷により想定される基層の状態を差別化し、減圧法による圧裂強度評価と評価指標についての整理を行った。その整理した結果から、新たな評価指標を検討し、供用路面で想定される基層の状態を模擬した供試体を用いた室内試験結果において、非健全部を適正に評価できる可能性が示唆された。
2.1 走行負荷による想定される基層の状態の整理
表-1の全水浸走行2hの試験条件における剥離面積率は概ね12〜20%程度であり、試験後の供試体の剥離形態は供試体表面部分の剥離が顕著で、基層上部からの水の侵入による剥離が再現できていることを確認した。
表-1 想定される基層の状態 | ||||||||||||||
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※1:走行負荷なし-トラバース、トラッキング走行なし
※2:ドライ走行2h-水浸ホイールトラッキング試験(60℃)のトラバース、トラッキング走行を水浸なしで2h走行
※3:全水浸走行2h-水浸ホイールトラキング試験(60℃)のトラバース、トラッキング走行を供試体全水浸で2h走行
2.2 圧裂強度を用いた剥離抵抗性に関する評価指標の整理
@既往の評価方法1)について
- 減圧法、加圧法ともに標準圧裂強度、残留圧裂強度、残留圧裂強度比で評価
- 減圧法では、残留圧裂強度比および標準圧裂強度と空隙率の関係において、危険領域を定める提案がなされている。
(すでに剥離が生じている供試体では、標準圧裂強度が小さいため、結果として残留圧裂強度比が大きく評価されてしまい、誤った判断を下す危険性についても触れられていて、それを防止するために標準圧裂強度にも限界ラインを設定し、このラインを下回れば剥離抵抗性に劣ると評価する、としている。)
A評価するうえでのポイント
- すでに剥離が生じている供試体では、標準圧裂強度が小さいため、結果として残留圧裂強度比が大きく評価されてしまい、誤った判断を下す危険性がある。
- 健全度を評価する場所は損傷の大部分が発生する車両走行位置が良い。残留圧裂強度比評価の分母である標準圧裂強度は、評価するうえで想定される当該アスコンの基準となる圧裂強度となるのが望ましいと考えた。
→該当する基層の位置および状態
供用後に通行車両の輪荷重の影響を受けた健全部の走行車両位置のコア
上記、評価するうえでのポイントを踏まえ、非健全部の評価として、以下の残留圧裂強度比を検討した。
◎非健全部の評価指標
残留圧裂強度比〔非健全部(検討)〕
=残留圧裂強度(非健全部-車両走行位置)/標準圧裂強度(健全部-車両走行位置)
2.3 残留圧裂強度比〔非健全部(検討)〕を用いた剥離抵抗性に関する評価結果
減圧法による圧裂強度評価結果を表-2、図-2、3に示す。健全部を想定したドライ走行2hの残留圧裂強度比の平均は0.89であった。残留圧裂強度比〔非健全部(検討)〕は平均で0.63であり、個々の値としても最大で0.79であることから、非健全部を適正に評価できる可能性が示唆された。
表-2 圧裂強度評価(室内試験) |
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3. 供用路面の基層を用いた減圧法による圧裂強度評価と室内試験結果の整合性(2022)
供用路面の基層コアを用いた減圧法による圧裂強度評価を実施して、室内試験結果との整合性を検証した。供用路面のコアは、(国研)土木研究所舗装走行実験場と一般の舗装修繕工事の調査工で採取した。コア採取箇所の路面状態を表-3に、供用路面評価と室内試験評価との対比を表-4、図-4、5に示す。表-4に示すとおり、供用路面での評価と室内試験での評価が概ね一致していることが確認され、残留圧裂強度比〔非健全部(検討)〕は平均で0.6程度、また、残留圧裂強度比(健全部)は概ね0.8以上であることが確認された。
表−3 コア採取箇所路面状態 |
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表−4 供用路面評価と室内試験評価の対比 |
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4. 本研究における成果
本研究で得られた知見をもとに、基層健全度を評価する新たな評価指標および閾値の提案を行った。
@非健全部を評価する新たな評価指標の提案
残留圧裂強度比〔非健全部(検討)〕
=残留圧裂強度(非健全部-車両走行位置)/標準圧裂強度(健全部-車両走行位置)
A健全度を評価する残留圧裂強度比の閾値の提案
健全・・・残留圧裂強度比0.8以上 〔既往文献2)と同程度〕
非健全(剥離の進行および剥離抵抗性の低下)・・・残留圧裂強度比0.6以下
今回検討を行った評価指標である残留圧裂強度比〔非健全部(検討)〕は、基層の剥離抵抗性評価の一指標となりうることが確認された。非健全部としたコア採取位置はひび割れ近傍であること、また非健全部の基層の剥離面積率は15%程度と剥離が進行している状態であったことを踏まえると、検討で得られた残留圧裂強度比0.6以下の場合、基層混合物は剥離の進行、または剥離抵抗性が低下している可能性が高いと判断できる。
1)舗装調査・試験法便覧(平成31年版)〔第3分冊〕 公社日本道路協会
pp.180〜188「B019T 圧裂試験によるアスファルト混合物の剥離抵抗性試験方法」
2)河村他,「空港舗装の既設アスファルト混合物に対するはく離抵抗性評価方法の適用検討」,土木学会論文集E1(舗装工学),Vol.72,No.3(舗装工学論文集第21巻), I_87-I_93,2016.(0.8以上健全)