アスファルト混合物の二次元解析ソフト"IPAS-2"について
1. はじめに
国内において、アスファルト混合物切断面の二次元画像から混合物特性を評価した研究は、16ビットパソコンが普及し始めた1985年頃から行われているが、当時はデジタル画像ではないため、画像の幾何学的処理や、処理後の画像から骨材の形状や配向分布および空隙などの抽出や定量化には、かなりの労力と時間を費やしたものと思われる。最近になって、汎用のデジタル画像解析処理ソフトを使用した研究が発表されているが、これまでアスファルト混合物専用の解析ソフトは見受けられなかった。
2011年7月、ウィスコンシン大学に設置されているMARC(Modified Asphalt Research Center)のウェブサイトで、アスファルト混合物の二次元画像解析ソフトウェア“iPas-Image Processing & Analysis System-” が一般公開された。また、2012年1月には、“iPas”の拡張バージョンである“IPAS-2“が、MARC会員限定で公開された。さらに、2013年8月15日からは、”IPAS-2“とロゴが変更され、誰でも入手可能となっている。
TPT第6回勉強会では、”IPAS-2“の使い方を理解することを目的に、本ソフトを用いた検討を行った。
2. 検討概要
1)IPAS-2ソフトウェアの使い方
・概要
IPAS-2ソフトウェアのマニュアルや関係する論文を調べ、実際にアスファルト混合物の供試体断面画像を用いて本ソフトで解析を行い、本ソフトの使い方の手順と出力値および、解析結果を利用した事例について説明した。
・結果
- 解析手順については省略。なお、マニュアル原本では操作がわからない部分があった。
- 解析(出力)値は、任意の大きさ以上の骨材に関しては、数、寸法(長軸径・単軸径、有効径)、面積、座標、配向などである。
- 加えて、骨材間の接触状態を表す、接触領域数、接触骨材の数、接触長、接触線角度が解析される。これは特徴と言える。
- これら解析結果を利用した事例としては、“ISI(内部構造指数)”という接触状態を定量化した数値がある。ISIはアスファルト混合物の変形性状と関係があるとされている。
2)画像処理―フィルタ処理について
・概要
本ソフトでは、アスファルト断面画像を幾何学的に処理するために、3種類の画像処理(メディアンフィルタ → Hmaxフィルタ → 閾値処理)を行っているが、これについて解説した。
・結果
- メディアンフィルタは、画像のノイズを消し画像を平滑化する。
- Hmaxフィルタは、骨材領域の画像の濃度を均一化することができる。
- 閾値処理は、白黒画像に2値化するためのしきい値である。
3)骨材の細長・扁平、判定への試み
・概要
本ソフトを活用して、「骨材の細長・扁平を判定できないか」について検討した。また、粗骨材のみという単純な対象を用いて画像解析を行う際の懸念事項についても併せて検討を実施した。
・結果
- フィルタ処理を実施した際、自動的にAspectRatio.txtというファイルが作成され、認識された骨材毎に短径と長径が出力される。この値が活用できる。
- 対象画像について、適切なフィルタ処理値2項目としきい値を設定することにより、骨材形状を正確に認識させることはできる。
- 従来の手動計測と測定値の比較を行った結果、近似した測定値および精度が確認された。
- 元画像の撮影条件と解析結果の関係について検討した結果、条件(フラッシュの有無、画素数、背景)により異なる処理値の設定が必要になることが分かった。
4)骨材の整粒砕石、判定への試み
・概要
約40%のアスファルトプラントが排水性舗装に整粒骨材や粒形調整骨材を使用している。しかし、整粒骨材を評価する指標がないことから、本ソフトを活用した整粒骨材の指標の提案と評価を試みた。
・結果
- 既往研究にある、骨材の「丸さ度」を判断する指標に着目し、整粒骨材の指標として、「真上から見た丸さ度」と「真横から見た丸さ度」と組み合わせる指標を提案した。
- 本ソフトを活用して、提案した2指標の計測方法を検討した。
- 本ソフトを活用して、任意に選択した整粒骨材5個と、任意に選択した整粒前の骨材5個を評価した結果、評価できる可能性が示唆された。
5)作製方法の違いによる供試体の骨材配列等の違いについて
・概要
アスファルト混合物の供試体を作製する時に使用する締固め装置により骨材の配向に違いが生じるかIPAS-2を用いて比較した。なお、締固めに使用した装置は、マーシャルランマー,ジャイレトリーコンパクタ,ローラーコンパクタの3種類である。なお、このソフトで配向状態を解析するにあたり、手作業で解析した結果との比較により本ソフトで解析することの妥当性を検証した。また、フィルタ処理の設定値による影響についても併せて考察した。
・結果
- 既往の文献1)では、マーシャルランマーで作製した供試体より、ローラーコンパクタや現場でのローラ転圧の方が、骨材は水平方向に配向する傾向が見られるとされている。
- そこで、上述した3つの装置を用いて作製した供試体の断面をIPAS-2で解析し、粗骨材の配向状態を比較した。
- 解析では、IPAS-2の「Angles orientation」という機能を使って、粗骨材(2.35㎜以上)を対象に水平軸に対する角度を測定し、「抽出した骨材の平均角度」と「45°以下の骨材割合」の2つの指標を比較した。
- しかし、既往の文献で予想された結果とは異なり3つの装置による明確な差は見られなかった。
文献1) 「画像処理によるアスコン骨材の配向特性とその強度について」(佐野他:土木学会第41回年次学術講演会V-13)
6)IPAS-2から得られる数値と動的安定度との関係について
・概要
舗装分野における画像解析技術の日常業務への適用可能性を把握するため、IPAS-2から得られる値と動的安定度(DS値)の関係を検討した。検討では、ホイールトラッキング試験を実施した供試体(混合物種:密粒(13),密粒(20), 使用As: StAs,改質Ⅱ型)を横断方向に二分割し、車輪走行部直下を対象に画像解析を実施した。
・結果
- 供試体鉛直方向における骨材の材料分離特性を把握できることがわかった。
- 対象骨材の面積率と角度の算出が可能となり、力学特性との検討も可能となった。
- 同様の検討は、扁平な骨材に対しても実施可能であることがわかった。
3. まとめ
1)アルファルト混合物の二次元画像を用いた既往の研究
土木学会論文集で検索すれば、以下の論文が抽出される。
- 骨材の形状や個数および配向角度を測定しマーシャル安定度や動的安定度との関係を検討した佐野・水野の研究(1985,1986,1987,1989年)
- ポーラスアスファルト混合物の空隙や粒度特性を画像から評価し、透水性や低騒音にどのように影響しているかを検討した上島・姫野らの研究(1992年,1996年)
- 画像解析ソフトを用いて粗骨材形状等を計測した村山らの研究(2003年)
- 締固め方法と寸法の違いによる骨材面積や座標および配向角度を測定し力学評価への影響を検討した岩間らの研究(2008年)
これら文献中の記述を参考にすれば、“アスファルト混合物の二次元画像解析”とは、「“アスファルト混合物の切断面の画像をパソコンに取り込み、目的とする情報を取り出すことできるよう画像を幾何学的に変換するための処理を施して、材料の相についての情報を定量的に抽出すること。」ということになる。
2)IPAS-2ソフトウェアについて
- アスファルト混合物の材料の相のうち、骨材および骨材接触の情報を抽出し解析を行う二次元画像解析ソフトである。
- 本ソフトで特に注目されること、骨材接触の連続した繋がりで形成される骨格構造を成す骨材情報が解析(出力)されるという点にある。(スケルトン接続骨材)
- 本ソフトの使用方法および解析(出力値)についてはほぼ理解できた。
- しかしながら、フィルタ処理の設定値や接触間隔の値など不明な点がある。
- フィルタについて
- メディアンフィルタは、値が小さいと、画像像のノイズが残りやすく、Threshold後の骨材の形状がギザギザになる、および、骨材間の切れ目がわかりやすくなる。(大きいと逆)
- Hmaxフィルタは、骨材領域の画像の濃度を均一化することができる。値を小さくすると、明度が大きく(明るい)、骨材領域の濃淡のばらつきが大きくなる。また、抽出される骨材の粒度が小さくなる傾向がある。
- 閾値処理の白黒画像に2値化するためのしきい値で、値が小さいと、細骨材、アスファルトの領域まで抽出する可能性がある。また、骨材間のつながりがわかりやすい。
3)IPAS-2ソフトを用いた、骨材の細長・扁平判定について
- IPAS-2により、砕石の形状を画像解析することは可能であり、細長比の測定に使用できる
- フィルタ処理の設定値に関して、3項目の最適な組合せにより元画像に近い処理画像(2値化画像)を得ることができる。
- 対象が同じであっても撮影条件毎に、フィルタ処理の設定値を検討し最適な組合せを見つけるという作業が必要となる。
- 目的を“細長扁平率測定”とした場合、撮影から解析までの労力および測定の精度を考慮すると、従来の手動計測に対する優位性は確認できなかった。
- 条件を適切に設定することで、2値化により骨材形状を数値化することが可能となり、骨材形状に特化した研究目的においては活用できると考えられる。
4)IPAS-2ソフトを用いた、骨材の整粒砕石判定について
- 真上及び真横から見た「丸さ度」、という2つの指標で整粒骨材を判断できる可能性があることがわかった。
- 上記の2つの値の計算には、一度に多数の骨材を計測することが可能であり、長軸方向(角度)を判断できる「IPAS-2」は有効であると考えられる。しかし、撮影環境やフィルタ設定、骨材の置き方により、計測誤差が生じるため補正が必要である。
- 今後は、丸さだけでなく、骨材の角張った形状も考慮する必要がある。
5)作成方法の違いによる供試体の骨材配列等の違いについて
- IPAS-2により、手作業とほぼ同じような結果を得ることができることから、効率的な解析が可能となる。
- フィルタ処理は、配向状態を示す数値への影響が少ない範囲で最適なフィルタ処理を行う必要がある。
- 作製方法による影響は、今回の条件では予想していた差は見られず、既往の文献とは異なる傾向となった。
- この原因として、混合物に使用する骨材形状(扁平、細長など)により、作製方法で配向状態に差が出やすいのではないかと考えられ、今後の検証する必要がある。
- また、最適なフィルタ処理の設定値については、解析する目的に応じて調整が必要となるが、「最適」とする判断が難しいと言える。
- さらに、このような骨材の配向状態の違いが、混合物の性能にどの様な影響を及ぼすのか解明できれば、最適な転圧方法や転圧機械の開発に役立てられる可能性がある。
6)IPAS-2から得られる数値と動的安定度との関係について
- 鉛直方向における骨材分布の検討結果より、不均一な分布であるとDS値も小さい傾向にある。
- 密粒(13)は密粒(20)に比べ骨材接触長が長い。
- 粒径の大きい骨材の割合が多いほどDS値は大きい傾向にある。
- 扁平な骨材の割合が多いほどDS値は小さい傾向にある。
- DS値の小さい供試体ほど、扁平骨材の角度分布が不均一である。
- IPAS-2に関しては、解析条件の設定に課題が残るものの、検討対象や用途によっては有効な道具であると考えられる。
※詳細は、『TPTレポート No.12』に記載。